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KINOミーティング#4 新宿 フィールドリサーチ/KINO Meeting #4 Shinjuku Field Research
2023.10.26

KINOミーティング#4 新宿 フィールドリサーチKINO Meeting #4 Shinjuku Field Research

KINOミーティング#4 新宿 フィールドリサーチKINO Meeting #4 Shinjuku Field Research

2023年10月27〜29日の3日間、KINOミーティングの4回目となるワークショップを開催します。今回、フィールドとなるのは新宿。ワークショップ開催を前に、KINOミーティングのプロデューサーである阿部航太が、個人的にも思い入れのあるこのまちを改めて歩き、感じたことを記します。ーーーー

羽田空港から新宿駅西口行きのバスに乗る。車窓をぼんやり眺めながら30分くらい経つとバスはトンネルに潜る。しばらくしてそのトンネルを抜けて地上に上がるとそこはもうオペラシティの目の前、初台の大きな交差点だ。数分後、西口に停車したバスを降りる。東京を離れて1年半たった今でも、その瞬間「帰ってきた」という感覚を覚える。

笹塚から新宿のエリアは、東京で暮らしていた10年の間の生活拠点であったし、さらにさかのぼって高校卒業後に通った英語の専門学校も新宿にあった。本を買うのも、映画を観るのも、友人と喫茶店や居酒屋で話をするのも、そのほとんどが新宿だった。恥ずかしげもなく言えば、新宿は青春の地であり、今でも東京における自分のホームだ。

KINOミーティング#4 新宿 フィールドリサーチ/KINO Meeting #4 Shinjuku Field Research

ひしめく家電量販店のなかでインスタントカメラを入手し、とりあえず西へ歩き出す。騒がしい看板が密集したエリアを通り抜け、一本道をわたると急に緑が増える。視界が広くなり、その先にはやたらと背の高いビルが何本も見えてくる。そのどれもがもう見慣れた建物だけれど、それぞれがなにのためのものなのかは把握していない。西に進めば進むほど、道幅が広く、木々と建物が高くなる。ヒューマンスケールから離れていく感じ。その大きさと遠さによって、自分が“ほっとかれている”と感じる。それを心地よく思うこともあるし、冷たく、暴力的にすら感じることもある。ここに来るたびに「外国に来たみたいだ」と思う。

KINOミーティング#4 新宿 フィールドリサーチ/KINO Meeting #4 Shinjuku Field Research
KINOミーティング#4 新宿 フィールドリサーチ/KINO Meeting #4 Shinjuku Field Research

北からぐるっと回って新宿駅へ戻る。昨年閉店した駅に直結した百貨店は仮囲いで覆われている。ここにあったはずのビルも更地になり、再開発は着々と進んでいるようだ。少し上から眺めてみようとペデストリアンデッキに登ったとき、デッキの端で膝をついて頭を下げている人が目に入った。ムスリムの方で、お祈りをしているところだった。

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デッキの下から祭囃子が聞こえてくる。なにかのお祭りらしく、法被を着た人たちが群がっていて、奥には神輿も見える。こんな大都市の中心地にあっても、そこを地元として育った人たちがいる、ということをその風景は物語っていた。ただ、その事実に驚きつつも、このまちで生まれ育つことをまだうまく想像することができない。

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地下道を通り、駅の西から東へ。東側でも祭りは続いている。頻繁に通ったレコード店や好きな喫茶店がある通りには、椅子、テーブル、出店がにぎやかに並んでいて、上には提灯も下がっている。とある屋台のメニューのなかに「サテ」という言葉をみつけた。それは、私が昨年おぼえた言葉で、インドネシアでは(マレーシア、シンガポール、タイでも)“串焼き”を指す。鶏肉などを串に刺して焼いたものに、ピーナッツをすりつぶしてつくる甘辛いソースをつけて食べる。高知の技能実習生から教えてもらった料理で、つい最近も実習生たちと一緒に食べたばかりだった。歩くのを止めたくなかったので、とりあえず「私は知っていますよ、そのおいしさを!」とこころのなかで叫びながら通り過ぎる。

KINOミーティング#4 新宿 フィールドリサーチ/KINO Meeting #4 Shinjuku Field Research

「やっぱり“海外に(も)ルーツをもつ人”が多いな」と思う。そのうち観光客も多くの割合を占めるのだろうけれど、このまちだとその差を見極めるのが難しいし、その差異を見出すこともナンセンスに思えてくる。それは、このまちが誰もが“通過”するまちと言いたくなるからだ。その通過に要する時間が短いか、長いかの違いでしかない。このまちで生まれ育った人のことも、移動の最中にあると考えると、勝手ながらそのあり方を想像できるような気がしてくる。およそ20年前、私が通っていた英語の専門学校の先生たちも、昼休みに通ったビビンバのお店の店員さんも、初めてナンプラーを味わったあの東南アジア料理店の人たちも、人生における移動の最中にこのまちに立ち寄っていた。皆はあれからどこへ向かったのか。それとも、まだこのまちにいるのだろうか。

KINOミーティング#4 新宿 フィールドリサーチ/KINO Meeting #4 Shinjuku Field Research
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インスタントカメラを片手に歩くことで、ただの散歩がちょっとしたタイムトラベルになる。ファインダーを覗き込む瞬間、自分の記憶から同じ場所の当時の景色をひっぱり出して、今見ている景色に重ねている。その道中、すれ違う人や風景に影響を受けて、景色はどんどんと移り変わる。花園神社を抜けて、真昼のゴールデン街に出たところでフィルムが終わった。

KINOミーティング#4 新宿 フィールドリサーチ/KINO Meeting #4 Shinjuku Field Research

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ワークショップ「KINOミーティング #4 新宿」の開催に合わせ、一般公開の上映会を行います。上映作品は新宿でのワークショップで制作される「シネマポートレイト」と劇映画「ニュー・トーキョー・ツアー」。ゲストに写真研究・美術批評がご専門の村上由鶴さんを迎え、作品やプロジェクトについて理解を深めるトークも実施します。

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