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レポート:「アートと多文化共生の研究会」第1回/ 講師:んまつーポス
2025.11.24

レポート:「アートと多文化共生の研究会」第1回 講師:んまつーポス

執筆:テイ ウシン(KINOミーティング運営スタッフ)

2025年8月2日、3日、11日の3日間にわたり、KINOミーティング企画「アートと多文化共生の研究会 — クリエイションの現場にみる多文化共生の実践」を開催しました。各回の研究会では、コンテンポラリーダンスカンパニーの“んまつーポス”、美術家の西尾美也氏、そしてKINOミーティングが講師を務め、それぞれの創作手法や実践経験を起点にしながら、研究会に集まった参加者とともに、表現の可能性と、協働から生まれる新たなコミュニケーションのあり方を探りました。本稿は“んまつーポス”が講師を担当した第1回のレポートです。

2025年8月2日(土) 講師:んまつーポス「創って踊るだけではないダンス 〜からだは感情をかくしもっている」

初回は、コンテンポラリーダンスカンパニー“んまつーポス”を迎え、身体表現とコミュニケーションをテーマにプログラムを実施した。多文化共生をテーマとすると、「やさしい日本語」や「多言語」など、つい言語によるコミュニケーションを深ぼる状況をイメージしてしまうが、非言語表現を用いた場合には、どのような協働、コミュニケーションが生まれるのだろうか。

2025年8月2日(土) 講師:んまつーポス/「創って踊るだけではないダンス 〜からだは感情をかくしもっている」

研究会の開始と同時に椅子に座る間もなく、んまつーポスの3人はウォームアップのためのダンスのレクチャーを始めた。熱中症の注意喚起をテーマとしたダンスで、テンションの高い音楽にあわせて隣り合わせた人とペアで踊る。突然踊るように言われるとやはり少し抵抗があるし、しかも他の人とペアを組むとなると余計に気恥ずかしい。しかし、んまつーポスの3人の説明はわかりやすくてテンポも良く、ふりの覚え方もシンプルで、気づけば参加者は皆きびきびと1曲を踊りきっていた。

2025年8月2日(土) 講師:んまつーポス/「創って踊るだけではないダンス 〜からだは感情をかくしもっている」

ウォームアップを終え、その日の本題である「だだだだ・だ」というワークショップに移る。ここでは、ダンスによるミュージックビデオを撮影するようなワークを実施。ひとつのテーマ曲を複数のパートに分けて、グループに分かれた参加者たちがそれぞれのパートの振付をつくり、それらを実際に踊った映像を撮影し、1本の映像作品を完成させる。最終的にはその映像を鑑賞するまでがワークに組み込まれており、んまつーポスはその工程を「踊って、創って、撮影して、編集して、鑑賞して、興奮して、解散する」と説明する。

2025年8月2日(土) 講師:んまつーポス/「創って踊るだけではないダンス 〜からだは感情をかくしもっている」

上記の工程を今回は90分という短時間で完遂する。まず全員で踊るパートを練習し、その後はグループごとに担当するパートの歌詞カードが配布され、その歌詞をもとにダンスの振付を検討する。時間は限られており、自己紹介をしている余裕もないが、逆に何を話せばいいかわからないという気まずさもない。目的はただひとつ、グループの動きを完成させること。柔軟性やリズム感は問われず、音や歌詞のイメージ、直感を頼りに、それぞれのグループが唯一無二の振付をつくり上げた。

2025年8月2日(土) 講師:んまつーポス/「創って踊るだけではないダンス 〜からだは感情をかくしもっている」

その後、全体のダンス撮影へ。近くの河川敷に移動して撮影する頃には、最初のウォームアップで感じた恥ずかしさはすっかり消えていた。初めて会った人たちと一緒に踊り、撮影することがこんなにも面白いとは思わなかった。

2025年8月2日(土) 講師:んまつーポス/「創って踊るだけではないダンス 〜からだは感情をかくしもっている」

グループごとの撮影では、待機中に自然と「もう一度練習しよう」と声を掛け合い、動きの順番を確認し合った。最終的に撮影は無事に終了。ダンスを通してひとつの作品をつくり、完成した映像を観たとき、胸が高鳴り、満たされた気持ちになった。

2025年8月2日(土) 講師:んまつーポス/「創って踊るだけではないダンス 〜からだは感情をかくしもっている」

ワークショップの説明のなかで聞いた、「相手の考えを否定せず、組み合わせていく。積み木のように」という、んまつーポスの言葉が特に印象に残っている。グループで話し合うときにも、それを意識した。そして完成した作品は、まさに一人ひとり、一つひとつの積み木が重なり合ってできたものだった。

2025年8月2日(土) 講師:んまつーポス/「創って踊るだけではないダンス 〜からだは感情をかくしもっている」

最後のディスカッションで、日本の学校には「創作ダンス」の授業があるということを、台湾で育ったわたしは初めて知った。そして、そのときの経験が原因で、多くの人はダンスに対して恥ずかしさや戸惑いを感じたり、ダンスを学ぶ意味を見出そうとしない傾向がある。しかし、んまつーポスの活動は、ダンスを創作することがパフォーマーになるためだけにあるのではなく、さまざまなクリエイティブな活動へと展開しうる可能性を提示している。その取り組みが、「多文化共生」の現場でも有効に働くことは、今回のワークショップで立ち上がった風景からも明らかである。

そして、それを達成するための工夫はプログラムの随所に見ることができる。「だだだだ・だ」のワークショップでは、「踊って、創って、撮影して、編集して、鑑賞して、興奮して、解散する」という7つのステップを限られた時間内に達成するという枠組みによって、参加者たちは常に新鮮な感覚を保ちながら各段階の目標に向かって協働することができる。また、映像撮影を取り入れることで、消えてしまうダンスの瞬間は記録され、それを客観的な視点から見なおすことが可能になる。限定された歌詞カードからはじまる振り付けの創作では、歌詞の内容よりも音やリズムというノンバーバルな部分がコミュニケーションを誘発し、自然に対話や交流が生まれる。多文化共生という大きなテーマに対して、これらの細やかな工夫が機能して、誰もが参加できる環境をつくり出している。

んまつーポスは、「参加者にほんの少しの変化をもたらせればそれでいい。帰り道の風景が少し違って見えるだけでも」と言う。研究会が終わり、帰りに再び河川敷を眺めたとき、今日、ほんの一度きり会った人たちと一緒に踊り、積み木を積んだ時間が、確かに景色を少し変えてくれたと感じた。

2025年8月2日(土) 講師:んまつーポス/「創って踊るだけではないダンス 〜からだは感情をかくしもっている」

写真:沖野恭章