
手法4:(スペース・ルーム)スキマを言葉にしてみるラジオMethod 4: (SPACE / ROOM)
協働の場へのもうひとつの経路
ポッドキャスト番組「(スペース・ルーム)スキマを言葉にしてみるラジオ」は、KINOミーティングが映像制作ワークショップと並行して展開するもうひとつのプロジェクトである。これまでKINOミーティングはワークショップの対象を“海外に(も)ルーツをもつ人”たちと定め、個人のルーツに着目した映像作品の制作に取り組んできたが、その過程において、「ルーツ」という言葉における解釈の多様さや、ステレオタイプなフレームに当てはまらない個人史の一部に触れてきた。そうした“当てはまらない”エピソードは、従来の認識の間に見逃してきた「スキマ」として現れる。このプロジェクトでは、そのようなさまざまな「スキマ」を言葉にすることを試み、共有する“場(スペース・ルーム)”としてラジオを起動させる。
このラジオは「十二(じゅうに)」と名乗るパーソナリティによって進行される。十二についてはそのアバターネームとKINOミーティングのワークショップ参加者である、という情報以外は明らかにされていない。ワークショップに参加しているのであれば“海外に(も)ルーツをもつ人”なのだろうと想定できるが、十二のルーツや出自については番組内でも直接的には説明されない。また、番組は毎回ゲストを招く形式になっているが、そのゲストも本名ではなくアバターネームを使い、プロフィールについての説明はなされない。この仕組みを提案した十二は「アバターネームを使用することで話せることがある」とその意図を話す。それは“海外に(も)ルーツをもつ人”たちが、外見や名前などの情報によりコミュニケーションが発生する手前で“異なる人”として判断され、なおかつそれについての“説明”を求められる傾向があることと関係する。実際に、そのような要求に対して、余計なやりとりを避けるためにステレオタイプな説明をすることもあるという。このラジオでのアバターネームは、その“手前の判断”や“説明の要求”をくぐり抜ける方法として起用され、番組では回ごとに設けられたトークテーマについての対話が冒頭から繰り広げられる。たとえ出演者の出自に関する情報に触れなかったとしても、いや、一切触れずにいるからこそ、語られる内容はものすごく“個人的”なものとなり、「スキマ」をゆるやかにつくりだす。
「(スペース・ルーム)スキマを言葉にしてみるラジオ」はKINOミーティングが映像制作ワークショップにおいて繰り返してきたことを、あらためて見つめなおす試みでもある。“語る”こと、“聞く”こと、“共につくる”こと、そうした行為はワークショップでは“ルール”や“手順”としてプログラムにしているが、このラジオではそれぞれの行為に本来どのような意味や影響があるのかを改めて考える機会をつくる。ここでの発見や意識は、ワークショップのプログラムや映像作品の制作現場に対するフィードバックとなる。
ある語りから現れた「スキマ」を、映像作品の制作過程でこぼれてしまった「スキマ」を、そしてそれらの「スキマ」が可視化された過程を、このラジオではたっぷりと時間をかけて見つめなおしてみる。そうすることで、KINOミーティングが目指す“異なるルーツをもつ人たちの新たな協働の場”へ、映像制作ワークショップとは異なる経路で辿り着けるかもしれない。
(スペース・ルーム)スキマを言葉にしてみるラジオ
- EP1. 「会話≠「自分のこと」を話す」
- EP2. 「私が最も美しかった時」
以下のプラットフォームにてご視聴いただけます。
以下の記事にて各回の概要をご覧いただけます。