レポート:「アートと多文化共生の研究会」第3回講師:KINOミーティング
執筆:テイ ウシン(KINOミーティング運営スタッフ)
2025年8月2日、3日、11日の3日間にわたり、KINOミーティング企画「アートと多文化共生の研究会 — クリエイションの現場にみる多文化共生の実践」を開催しました。各回の研究会では、コンテンポラリーダンスカンパニーの“んまつーポス”、美術家の西尾美也氏、そしてKINOミーティングが講師を務め、それぞれの創作手法や実践経験を起点にしながら、研究会に集まった参加者とともに、表現の可能性と、協働から生まれる新たなコミュニケーションのあり方を探りました。本稿はKINOミーティングが講師を担当した第3回のレポートです。
2025年8月11日(月・祝) 講師:KINOミーティング「シネマポートレイト:撮る/撮られるから始まる関係」
第3回は、本研究会の主催であるKINOミーティングが講師を担当。今回は、KINOミーティングの活動の軸となる「映像制作」の特徴であるカメラで「撮る側」と「撮られる側」という関係性から、多文化共生の状態と表現の可能性について考えるプログラムを実施。参加者、これまでKINOミーティングが取り組んできたふたつのワークショップ「シネマポートレイト」と「シネマエチュード」を通して協働関係を構築するプロセスを部分的に体験する。
ひとつ目の「シネマポートレイト」では、三人一組でまちへ出かけ、それぞれが「自分のルーツ」を探しながら、「探す人」「録音する人」「撮影する人」という役割を交代して担う。最後に写真と音を組み合わせ、参加者それぞれの映像によるポートレイト作品が完成する。
これまでKINOミーティングでは「海外に(も)ルーツをもつ人」を対象にワークショップを開催してきたが、今回はそうした条件を設けずに参加者全員にこのワークを体験してもらった。むしろ一人ひとりが異なる背景を抱えた存在であることが自然に浮かび上がった。久しぶりにこのワークを体験した私は、まちでルーツを探す時間が思いがけず多くの記憶を呼び覚まし、自分の成り立ちを改めて意識するきっかけとなった。そしてワークショップという枠組みの中では、それぞれが役割を担い、順番に語り合うことで、自然と互いに耳を傾けていく関係性がつくられる。役割を交代しながら進める過程や、ルーツを探す過程では、ふとした雑談も生まれ、自然に距離が縮まっていく。どんな場所でも、どんな人とでも実践できる手法だからこそ、毎回新鮮な発見があるのだと実感した。
次は「シネマエチュード」という複数人の個人の実体験からひとつのフィクション作品をつくりあげるワークを実施。今回は、いくつかあるプロセスのなかから、プロットを制作するまでの過程を参加者たちは体験した。
制作する脚本のテーマは「再会」。グループ内の3人でそれぞれの「再会」の経験をシェアし、そのなかからひとつを脚本の軸として選ぶ。3人はそのエピソードの登場するキャラクターを演じることを想定して互いを配役するが、人物像の詳しい背景を設定する過程では演じる本人の特質が自然に反映されていく。昨年度KINOミーティングで実施したワークショップでは、参加者が自らつくったキャラクターを実際に演じ、短いフィクション作品を撮影するまでを行なったが、今回はその入口として、あらすじとキャラクターの設定までとなった。しかし、各グループが書き上げた内容を読むだけでも十分に想像力が刺激され、映像化されたときの展開が楽しみになってくる。自分の実体験を土台にしつつ役柄に自身を重ねることで、創造のプロセスだけでなく表現についても豊かで意味深いものとなった。
研究会のフィードバックでは、今回実施したふたつのワークのなかで共通して取り入れいている「ローテーション」や「視点の交換」という手法を共有した。この手法はKINOミーティングがさまざまなルーツの人たちの協働を目指すなかで編み出してきた重要な要素で、2024年に実施した長編映画の制作でも同様に取り入れられたものである。ただし、こうした手法を用いたとしても、実際の撮影現場では、階層を設けないことによる議論の難しさや、時間配分の困難といった課題が生じた。常にお互いに声を掛け合いながら、「よい作品をつくること(新しい映像表現)」と「よい現場をつくること(新しいコミュニケーション、新しい協働のかたち)」の両立を目指していたことを改めて振り返る機会となった。
ーー
今回の3回の研究会では、んまつーポスや西尾氏、そして私たちKINOミーティングが、それぞれ異なるメディアを用いながらも、作品をともに創り上げる過程や、その中で生まれる対話の重要性を共通して強調していた。
ともに作品をつくることで「ともに自由になる」ことが可能になり、より多様な可能性が広がる。その「ともに」の部分をどのように実現させるか。参加者は今回の研究会を通して、普段は気づかない自身の身体表現によるコミュニケーションの可能性や、言葉や服といった使い慣れているツールを普段とは異なる方法で扱うことで獲得できる視野、そして異なる背景を持つ人々の経験を交換して混ぜ合わせながら物語を共有する体験に触れることで、「ともに」を実践するためのヒントを得ることができたのではないだろうか。
KINOミーティングの運営チームの一員として、この研究会は、これまで活動を続けてきた3年間の自身の経験を振り返る機会にもなった。この数年は協働の現場をつくるために、さまざまな方法で創作し、それらのプロセスの設計にも関わってきたが、自分がなぜこれを続けてきたのか、その魅力の本質を深く考える時間を持てていなかった。この研究会を通じて、私は自分が人に興味を持っていること、違いに興味を持っていること、お互いの視点で一緒に作品をつくり上げることや、制作の過程で生まれる余白(対話や交流)に魅力を感じていることを、よりはっきりと理解できたように思う。
今後も、セオリーとして存在する方法に固執するのではなく、あえて遠回りする挑戦的な手法を選び続けたい。その理由のひとつは、遠回りすることでこそ見えてくる景色があり、そこから得られる発見や学びも豊かであるから。
ーー
写真:沖野恭章