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レポート:「アートと多文化共生の研究会」第2回/講師:西尾美也
2025.11.24

レポート:「アートと多文化共生の研究会」第2回講師:西尾美也

執筆:テイ ウシン(KINOミーティング運営スタッフ)

2025年8月2日、3日、11日の3日間にわたり、KINOミーティング企画「アートと多文化共生の研究会 — クリエイションの現場にみる多文化共生の実践」を開催しました。各回の研究会では、コンテンポラリーダンスカンパニーの“んまつーポス”、美術家の西尾美也氏、そしてKINOミーティングが講師を務め、それぞれの創作手法や実践経験を起点にしながら、研究会に集まった参加者とともに、表現の可能性と、協働から生まれる新たなコミュニケーションのあり方を探りました。本稿は西尾美也氏が講師を担当した第2回のレポートです。

2025年8月3日(日) 講師:西尾美也「装いとアイデンティティ」

第2回は、装いとコミュニケーションをテーマに、世界各地で現地の人々との作品制作やワークショップに取り組んできた美術家の西尾美也氏を講師に招いた。「多文化共生」をテーマとした実践のなかで「ファッション」という分野が関わることは稀のように思える。しかし、西尾氏の作品やプロジェクトの「ファッション」をコミュニケーションの入り口としながら、さまざまなかたちで「他者」が介在するという側面は、明確に「多文化共生」を体現している。

2025年8月3日(日) 講師:西尾美也/「装いとアイデンティティ」

前半は、西尾氏によるレクチャーを実施。以下の3つは、レクチャーにて紹介された西尾氏自身によるプロジェクトであり、それらからはさっそく「多文化共生」の側面が垣間見れた。

《Familial Uniform》過去の家族写真を、同じ場所、同じ服、同じポーズで再現し、新たな一枚を撮影。ひとつの共同体の変容と、それをつなぐエレメントとしての装いに注目する。

《Self Select》異国で見知らぬ人と服を交換し、それぞれのポートレイトを撮影するプロジェクト。西尾氏自身が異国の路上を歩き、現地の人に声をかけ、言語ではなく、服を交換することでコミュニケーションを試みることを提案する。派生作品《Self Select:Migrant in Tokyo》では、在日外国人が東京で日本人と服を交換し、それらの経験から各自が自身のための新しい服を製作する試みを行った。

《NISHINARI YOSHIO》大阪・西成の高齢女性と拠点「kioku手芸館たんす」で服飾を共同制作するプロジェクトで、地域の女性とのイメージの齟齬や、コミュニケーションから発生する「ズレ」をデザインに取り入れた服を提案している。2018年にはファッションブランドを立ち上げ、近年では近隣の在日外国人を共同制作者として迎え、ワークショップなども展開している。

《Familial Uniform》では「家族」という一番小さく身近な共同体のなかでの装いに注目し、それを西尾氏は「Uniform 制服」という言葉で表現する。そこで果たしている装いの機能を意識すると、自分たちの普段の装いも、なにかしらの「Uniform 制服」として身につけていることに気づく。自分の服は、自分の趣味趣向で決定していると思っていても、実は性別、世代、地域、在住地、そして出身地やルーツといったことから大きく影響をうけるかたちで決定されている。だからこそ《Self Select》で行われる他者と服を交換する行為は、一時的にお互いの属性やアイデンティティを交換する、という行為としても見ることができる。交換する本人たちは、他者としての視点やふるまいを擬似的に獲得することになるだろうし、それを作品として鑑賞する側は、それぞれの間での文化の違いと、それらを入れ替えた時に発生する「ズレ」の魅力を受け取ることになる。《NISHINARI YOSHIO》はその「ズレ」を、異なる世代の人たちと協働するという異なる方法で発生させるプロジェクトであり、そこに在日外国人が加わることは、その目的からとても自然な流れとして理解できる。

2025年8月3日(日) 講師:西尾美也/「装いとアイデンティティ」
2025年8月3日(日) 講師:西尾美也/「装いとアイデンティティ」

その後はグループワークとして「多文化共生の制服」を考案するワークを実施。“多文化”と、統一的に管理するためのツールである“制服”という相入れない組み合わせからこそ、新しい発想が生まれることを期待したワークで、参加者からは、共同制作によって制服を制作する過程を設けた案や、服やそのパーツを交換し合うシステムなども提案された。紙とペンだけで「服」や「多文化共生」という存在の範囲が拡張し、固定観念をほぐす「脳のマッサージ」のような時間となった。

2025年8月3日(日) 講師:西尾美也/「装いとアイデンティティ」
2025年8月3日(日) 講師:西尾美也/「装いとアイデンティティ」

ワークショップ後に実施した西尾氏とKINO ミーティングとの対談では、西尾氏の作品の多くが衣服や言語といった「使い慣れた既存のもの」を起点に「対話」から「交渉」へと展開していく部分が話題にあがった。例えば《Self Select》で、西尾氏がアフリカで現地の人と出会うとき、そして東京にて外国人が日本人と出会うとき、使用言語の違いが意思疎通の壁となることをきっかけに「服」というツールが代わってコミュニケーションを展開させる。また、使用言語の違い自体も壁となるだけでなく、現地の人はより丁寧に耳を傾け、非母語話者は誠実に想いを伝えようとする状況をつくるなど、プラスに働くことさえある。

2025年8月3日(日) 講師:西尾美也/「装いとアイデンティティ」

また、西尾氏自身はアーティストとしての活動に加え、他者と共に制作する「プロデューサー」的役割にシフトすることで、多様な視点を得てきたという。教育者としても「学び合うこと」で経験を共有し、創造の力が広がることを実感している。西尾氏は、岩田慶治『創造人類学入門』(小学館創造選書、1982)に記された「相手の立場に立つ」「ともに自由になる」という言葉を自身の活動と照らし合わせて語った。

私は「ともに自由になる」という言葉に非常に強い印象を受けた。アートプロジェクトや協働創作の中で、既存の概念や枠組みを超え、新しい視点を得たときに感じる喜び──それは、まるで解放されるかのような自由の感覚だったと気づかされた。私にとって、「創作」とは単なる自己表現ではなく、他者との出会い、共創、理解を通じ、ともに自由へ歩む営みであり、それこそが素晴らしいプロセスなのだと思う。

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写真:沖野恭章