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レポート:映画制作プロジェクト2024 |冬の部/[Report] Filmmaking Project 2024: Winter
2025.03.25

レポート:映画制作プロジェクト2024 |冬の部[Report] Filmmaking Project 2024: Winter

DAY1 2024/11/9

冬の部の演出は、タケル、パイ、チョウ、シキ、ベンカの5人で構成されている。運営の進行上、結果的に5名と最多となったが、部内でのコミュニケーションの様子を見る限り、人数の多さは制作を進める上でハードルにはなっていないようだ。冬の部が始まる前、秋の部の進行を参考に、演出部のみの事前のミーティングが行われた。そこでは、これまでに検討されてきた材料をもう一度整理して具体的なプロットをつくるために議論が行われた。

議論の末、今の仕事をやめて別の道を目指す決断をする人と、偶然その決断を打ち明けられる同僚のやりとりを描く、という方針に定まった。このアイディアがでたときにシキは、「私にもあのときあきらめなかったらな、と思うことがある」と自身の体験を重ねた。シキは美術大学を出てテレビ番組の編集の仕事をしていたが、その仕事を辞めた経験を「あきらめた」という言葉で表現していた。シキは一方で、タケルを「ちゃんと夢を追っている」と評する。タケルはバイトや、映像制作の仕事をしながら自主企画の映画制作を実際に続けている。

脚本は、チョウが担当することになり、キャストはシェリー、コウタ、トシキにオファーすることになった。チョウはもう頭にある程度イメージがあるようで「もうその3人しかいない」と断言した。そして、監督はパイが務めることに決まった。いつもは、音声のテクニシャンとして、どちらかというと技術サポートに近い働きを率先して行う縁の下の力持ち的な存在だったパイが、監督をやる。そうしたメンバーそれぞれの普段とは違う面を引き出すことができるのもこのローテーションの効果のひとつだ。そうしてDAY1をむかえ、以下のメンバー配置が決定した。

演出部:シキ、タケル、チョウ、パイ、ベンカ
俳優部:コウタ、シェリー、トシキ
美術部:ショエン、ユセフ、リウ

結果的に、冬の部は病欠や受験シーズンのため、技術部として参加予定だったメンバーの欠席が重なり、該当メンバーがゼロとなってしまう。そこで、状況を見ながら演出部、美術部両方から数名が技術部として動くことで対応することになった。

DAY1 2024/11/9/

DAY2 2024/11/23

タケルが監督した自主制作の映画が、「TAMA NEW WAVE」という若手作家を対象とした映画祭で上映されるとのことで、この日はメンバー全員でその上映に駆けつけた。舞台挨拶でステージに上がったタケルを見ると、少し緊張しつつも日本で初上映となるこの機会に興奮していることが伝わってくる。映画は『鳥を導く』と題され、音楽制作の仕事でスランプに陥った主人公と、ろう者の姉とが、山奥のペンションを舞台に交流する姿を描くもので、キャラクター描写と、背景にある自然の風景が印象的だった。他のメンバーはどんな感想をもっただろうか。「タケルさんの映画ってかんじだった」という意見も聞こえてきた。

その日の午後、仕切り直して冬の部のリハーサルにかかる。映画祭のためタケルは不在だが、パイを中心に撮影前の最後の活動日として追い込みをかける。その日、最新の脚本をもとにした絵コンテが共有された。それはシキが描いたもので、そのクオリティの高さに喝采が上がる。

リハーサルを進めていくとまだまだ脚本や設定で不明瞭な部分が明らかになってくる。秋の部が特別スムーズに進んだこともあったので、そのときと比べると今回はまだまだ決まりきっていない印象がある。しかし、今回の演出部は活動日以外のコミュニケーションをしっかりと密にやっており、互いのメッセージにも早い反応で対応できている。残り2週間でどれだけ詰められるか。

DAY2 2024/11/23/
DAY2 2024/11/23/

今回の撮影では、以下、複数種のカメラが起用される。

・本編撮影用のプロ仕様のビデオカメラ
・DVテープを使う、2000年代のビデオカメラ
・小型のデジタルカメラ
・物撮り用のデジタル一眼レフカメラ
・インスタントカメラ

登場人物たちが働く舞台は写真/映像撮影用のスタジオとして設定されたため、必然的にそうしたツールが登場することになる。そのなかでもDVカメラは、運営スタッフの森内が、15年ほど前に映像の仕事をするために初めて手に入れたカメラを使用する。今回の古いビデオカメラの画を使うというアイディアが演出部から出たあと、思い立って久しぶりに電源を入れたら起動したとのことで、演出部に提案し採用された。今のメンバーたちと同じ年くらいだった頃に森内が構えていたカメラを、いまKINOのメンバーが手に持ち、物珍しそうに眺めている。現場にスクリーンと接続ケーブルがなく、撮影した素材はカメラに内蔵されたモニタでしか確認できない。タケルが皆が見れるようにカメラを持ち上げ、それを後ろから他のメンバーたちがのぞいている。その姿が滑稽で、シェリーは「ライオンキングのワンシーン」のようだと形容していた。

DAY3 2024/12/14/

劇中、そのDVカメラを操るのはトシキが演じるキャラクター。役名も同じくトシキとされた。トシキの人物設定は、好奇心が豊かで、いつもカメラを持ち歩きながら自分の作品を撮影している人。この特徴は、じつはチョウが独自で考案したものではなく、MFMで製作した『ニュー・トーキョー・ツアー』からの引用でもあった。『ニュー・トーキョー・ツアー』でもトシキは俳優として劇中に登場しており、同様にカメラを首から下げ、他人との距離感が近いユニークなキャラクターを演じていた(後日、トシキはあの頃はそういう感じだったけど、今は全然キャラが違うので演じるのに少しと戸惑った、と語っていた)。そのキャラクターは確かに印象的だったが、チョウはそれを使ってKINOのルーツであるMFMと本作をつなごうとしている。そのプロジェクトを俯瞰するような捉え方はまるで運営側の視点のようだが、メンバーが自らの作品をそうしたプロジェクトの構造とリンクさせようとする意識を面白く感じた。

DAY3 2024/12/14/
DAY3 2024/12/14/

DAY4 2024/12/15

撮影の進行は完全に予定通りとは言わないまでも、なんとか前に進んでおり、クランクアップも見えてきた。しかしながら、新たに体調不良や病欠でメンバーの欠席が重なってしまい、わをかけて人数が少なくなっていた。とりあえず、撮影2日目朝のオールスタッフミーティングにおいて、今いるメンバーで改めて役割を振りなおす。緊急事態ではあったが、メンバーたちはそれぞれの部署の役回りに加えて、これまでのローテーションのなかで経験してきた役も担うことができるので、限られた人数であってもなんとか対応ができそうだ。その柔軟性と、対応力を目の当たりにし、4月からはじまりたった9ヶ月ほどの期間しか経っていないが、もうすでに役割を交換し合える変化自在のコレクティブが出来上がっていることに気がつく。

先述のように、このシーズンのエピソードはさまざまなカメラが登場し、登場人物たちはそれを互いに向け合う。その撮る/撮られるの関係は、KINOミーティングにて常に取り組んできた構図である。劇中では、“撮られる側”はそれぞれの日常の中での気づきを語ったり、これまで他人に話せないでいたことをカメラを向けられることで打ち明けることができたりする。一方で、“撮る側”にとっては、その語りを受けとることが自らが語り出すきっかけとなり、その反応の交差が普段とは異なる次元でのコミュニケーションを発生させる。今回の脚本ではアドリブのシーンはほとんどなく、脚本によって細かく内容が決められている。しかし、これまでのシーズンと同様に、リハーサルを重ねるごとに、脚本上のセリフが登場人物、そして俳優自身の語りとなって現れてくる。エピソードの中で最も重要な打ち明け話のあと、シェリーはインスタントカメラでコウタを撮影し、その直後にカメラをかまえたまま「かわいい」とぽつりと呟いた。それはふいに溢れた言葉であり、登場人物と俳優がシンクロした瞬間であった。

DAY4 2024/12/15/
DAY4 2024/12/15/

DAY5 2024/12/21

まだ編集をしていないラッシュの状態を観るだけでも、完成イメージが想像できるぐらいすでに十分にまとまっているように見えた。冬の部の活動最終日、演出部は編集を進めつつ、傍でトシキのアフレコを収録した。これからの編集作業についても、いくつか課題はあれども、特に大きな問題はなく進むだろうと見ていた。(しかし実際には編集終盤に、ラストシーンの部分で大きな課題が見つかり、再検討、再収録が演出部内で実施されることになるのだが……)

DAY5 2024/12/21/

ここで、春の部、秋の部を経て冬の部が終わり、ポストプロダクションの工程を残しつつも、メンバーたちは最も重要なパートを完遂した。キックオフ1日+活動日5日x3シーズン、合計16日間でプロット作成から撮影までを実施した経験はメンバーたちにとってどんなものだったろうか。作品が完成した暁には、改めてメンバーたちに話を聞いてみたい。このレポートでは、運営スタッフの視点から、キックオフから撮影終了までのプロセスを記述した。映画作品自体の紐解きや、プロジェクト全体の振り返りは、また別のテキストで行うこととする。