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レポート:映画制作プロジェクト2024 |イントロダクション[Report] Filmmaking Project 2024: Introduction
2022年4月からはじまったKINOミーティングは、この2年間の活動のなかで、「シネマポートレイト」(*1)を制作する2日間の短期ワークショップや、「KINOローグ」(*2)「シネマエチュード」(*3)という1.5ヶ月程度の中期ワークショップを行い、それぞれに小さな映像作品を製作してきた。それらを経由し、KINOミーティングは3年目にしていよいよ長編映画の制作に入る。

もともとKINOミーティングは、前進のプロジェクトであるMFM(Multicultural Film Making:ルーツが異なる他者と映画をつくる)にて、「さまざまなルーツをもつ人たちによる映画制作の現場」の可能性を確信したことを始まりのきっかけとしている。MFMでは、現在KINOミーティングの運営スタッフのひとりであるテイ ウシンが監督となり、海外に(も)ルーツをもつ人たちと一本の長編映画『ニュー・トーキョー・ツアー』を完成させた。その作品の視点、表現方法、製作プロセス、チーム内のコミュニケーションは、新しい協働のかたちを示唆するものであったし、その場ではまだまだ試せることがあると感じ、その活動を発展的に継続するかたちでKINOミーティングは始まった。このレポートでは、KINOミーティングにてプロデューサー/企画運営を担当する阿部航太が、運営スタッフの視点からメンバーたちによる映画制作のプロセスを記す。

プロジェクトの構造
KINOミーティングの映画制作のプロセスは、MFMよりもう一歩踏み込んで、参加者の自主性にゆだねるかたちをとっている。そのなかでの一番のポイントは、こちらで「監督」「脚本」を用意しないことにある。MFMでは、テイさんがワークショップ参加者と運営スタッフの間に立つ存在として、さまざまな参加者の個人的なエピソードをもとに脚本を書き、監督の役割を担い、その物語に他の参加者、スタッフが参加する、というかたちをとった。この手法はおおいに成功し、多くの発見をもたらすプロジェクトになり、さらに多様な視点があるはずという先の展開をも期待させた。その視点を獲得するためにも、今回は「監督」「脚本」を参加者に委ねることとして、なおかつより多彩な物語を期待し、オムニバスという形式で長編映画を制作する方針をとった。

今回の制作では、春の部、秋の部、冬の部と3つのシーズンを設定し、それぞれにひとつのエピソードを撮影し、3つを繋げて1本の長編映画をつくることにした(ここでは詳細に書かないが、その制作過程を記録するドキュメンタリー映画も本篇と同時進行で制作する)。また、制作チーム内には、以下4つの部署を設けた。
・演出部:物語をつくり、演出する(監督/脚本/スクリプターなど)
・俳優部:キャラクターをつくり、演じる(俳優)
・技術部:撮影、録音する(カメラ/音声)
・美術部:画面に映るものをデザインする(美術/小道具)
参加者たちは、シーズンごとに所属部署をローテーションする。例えば、あるシーズンで主人公を演じた人を、次のシーズンではカチンコをもって「テイクワン!」と叫ぶこともあるし、そのシーズンで監督していた人が、また次のシーズンではブームマイクを持ち上げて監督から指示を受ける。役割を入れ替えることで、制作プロセスのなかでのヒエラルキーが固定化されることを避け、ひとつの作品により多様な視点を持ち込むことがこの仕組みの狙いであり、KINOミーティングがこれまでの活動のなかで見出してきた手法の根本的なアイデアである。


あらすじ
東京のとある深夜。
残業で会社に居残る3人。
退屈な作業をしながら、たわいのない会話を交わしていたが、
ふとしたことをきっかけに
それぞれが今まで話したことがなかったことを打ち明ける……
以上が、このプロジェクトで制作する映画のあらすじである。先に、監督、脚本は参加者へ委ねると述べたが、このあらすじだけは運営スタッフにより設定された。1年間のプロジェクトとはいえ、限られた予算や時間(19日間の活動日)のなかでひとつの映画をつくる企画であるため、撮影規模はミニマムに抑える必要があり、登場人物が「3人」の「屋内」での「会話劇」というフレームを設けた。しかし、KINOミーティングは、こうしたフレームや先述のローテーション等のルールを、主体性を制限するものではなく、むしろ主体性と独自性を導き出すものとして取り入れる。その手法は、これまでのワークショップで実践を重ねるなかで確立してきたものだ。このあらすじでも、「深夜」と「打ち明け話」というフレームを設け、日常の隙間に発生する人々の距離の近いやり取りを描くことで、各参加者のパーソナルな体験を引き出すことを狙った。
メンバー
2024年3月に開催した事前説明会を経て、プロジェクトの参加メンバー(以下、メンバーと呼ぶ)として集まったのは、シーズンメンバー(各シーズンのみに参加する人)を含めて15名。メンバーを募る際に、KINOミーティング、もしくはMFMのワークショップに参加経験があることをエントリー条件とした。KINOミーティングが参加者を一般公募した4回の短期ワークショップの全ての回からエントリーがあり、MFM経験者からも2名のエントリーがあった。またメンバーの多くは、KINOミーティングの中期ワークショップに参加した経験があり、それぞれの出自やキャラクターを互いに共有している人たちも少なくない。以下にて、過去のワークショップへの応募フォームと面談での回答を参照しそれぞれのメンバーを紹介する。なお、多様なルーツをもつ人々をそれぞれの母語で表記することも選択肢のひとつではあるが、ここでは読みやすさを優先し、人物表記はワークショップ時の呼び名をカタカナで表記することで統一する。
パイ:
台湾の台中市で生まれ育ち、大学で映像制作を学ぶ。2019年に来日し、都内の専門学校にて音響を学び、現在はサウンドエンジニアとして働いている。(2021年度 MFM参加)
トシキ:
中国の四川出身で、大学卒業後に上海、北京などでインターンシップを経験。2020年に日本の美大へ留学し映像を学ぶ。MFM参加時は大学生だったが、現在は都内で働きながら映像制作に取り組む。(2021年度 MFM参加)
ダイチ:
日本人の両親のもと、アメリカで生まれ育つ。2022年のワークショップ参加時は日本の高校に通っていたが、現在は都内の大学で学んでいる。(2022年度 WS#1参加)
リュウ:
中国天津市出身で、留学のために来日し大学院にて建築を学ぶ。2022年のワークショップ参加時は学生だったが、現在は卒業し都内で働いている。(2022年度 WS#1参加)
レイ:
中国南京市に生まれ、21歳まで同地で過ごす。大学で日本語を専攻していたが、もっと学びたいと考え来日。現在は都内の会社で働いている。(2022年度 WS#2参加)
タケル:
兵庫県で生まれた後、8歳からアメリカのニューヨークで過ごす。現在は、東京を拠点に映像制作現場で活動している。(2022年度 WS#2参加)
カイ:
中国出身。韓国、オランダで映画を学んだ後、2022年10月に来日。2022年のワークショップに参加したのはその1ヶ月後。現在は、都内の大学院にて映画を学んでいる。(2022年度 WS#2参加)
チョウ:
中国武漢市出身。カナダの大学で映画を学び、日本の大学院にて社会学などを学ぶ。現在は都内の外資系コンサルティング会社で働いている。(2022年度 WS#2参加)
シェリー:
中国北京市で生まれ育ち、14歳のときに単身アメリカへ移り住む。現地で大学を卒業し、2年ほど働いたのち、2022年に来日。現在は都内のIT企業で働いている。(2023年度 WS#3参加)
ユーセフ:
エジプト人の母、日本人の父のもと、5歳まで日本で過ごした後は海外を転々としていたが、大学進学をきっかけに日本へ。大学では映像研究同好会を立ち上げ、代表を務める。(2023年度 WS#3参加)
ベンカ:
中国出身で、留学のために来日。2023年のワークショップ参加時は、博士課程に在籍し芸術を学んでいたが、現在は美術業界に関わる都内の企業で働いている。(2023年度 WS#3参加)
シキ:
中国上海市出身。美大を卒業し上海のテレビ番組の編集に携わるも25歳のときに外資系の企業へ転職。その後2020年に来日し、現在は都内のIT企業にて働いている。(2023年度 WS#3参加)
コウタ:
埼玉県出身。大学卒業後、国際NGO団体のスタッフとしてコンゴ民主共和国など世界各地での活動に参加し、その中で映像をつくるようになる。コロナ禍で帰国後、東京を拠点に映像制作を仕事とするようになる。(2023年度 WS#3参加)
ショエン:
中国安徽省出身で、留学のため来日。日本語学校を経て大学へ進学し国際系の学部で学ぶ。大学では演劇研究のサークルに所属している。(2023年度 WS#3参加)
ニニ:
中国河北省出身で、現地の大学で映画を学ぶ。2022年に留学のため来日し、現在は都内の大学の映画学科に在籍し、自身でも映像作品を制作している。(2023年度 WS#4参加)
以上が、今回の映画制作に関わったメンバーである。そこに、KINOミーティングの運営スタッフである阿部航太、関あゆみ、テイ ウシン、森内康博がサポート、そしてメイキングムービーの撮影班が加わる。プロジェクトは2024年4月13日のキックオフから始動する。